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〜その2 淀の川瀬の水車。誰を待つやらくるくると〜
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先日、夜中に目が覚めちゃったので一階へ降りたら、おじいちゃ
んが居間でテレビを見ていたので「まだ起きてたの?」と言おう
としたところ、うっかり「まだ生きてたの?」と言い間違えちゃっ
たサクラコです。 |
そのあと、おじいちゃんに泣きつかれたうるちです。
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さあ始まりました、騒動魔女長談義二回目。
今日のテーマはわたしの職業「陰陽師(おんみょうじ)」とその
暮らしについて。
とても退屈な話になると思うので、別に寝ててもらってもかまい
ません。 |
いやいやそんなことはないだろ。もう少し感情をこめてしゃべろうな。
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はいでは始まります。陰陽師とは律令の考えにおいて政治を行っ
ている東乃国の往古に生まれた官職です。この世の全ては木、火、
土、水、金という五つの要素の組み合わせで成り立っているとい
う考えに基づいてこれを陰陽五行思想とし、それを利用して易を
したりコヨミを作ったりといろんなことをします。 |
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それらを原点として途方もない月日を陰陽道の発展に費やしてき
た今日の我々は、もっと強力で神秘的な力を身につけてもいます。
これにより人を困らせる悪鬼を退治したり疫病の素になる怨霊を
やっつけたりしているわけですが、わたしの姓である九条はその
中でも一頭地を抜く勇猛な存在として知られています。 |
そう。九条家は今や東乃国の政治に欠かされぬ存在。サクラコは
その666代目党首となる天才陰陽師なのだ! |
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はいでは次さっさと行きます。 |
お、おいサクラコ…… |
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陰陽道はふつう、家系によって受け継がれ、それぞれの家格にお
いて多少の違いはあるもののとても厳格な流儀とやたら古くさい
風紀を伴います。陰陽師はそれを伝統と呼んで遵守しなくてはな
らないのは取りも直さず、わたしの暮らしも古式ゆかしいと言え
ば聞こえの良い、ヘンテコなオキテに支配されています。 |
ヘンテコって! |
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たとえばこの服。本当は可愛いワンピースとか着たいのに、人の
目につくところではこの浄衣(じょうえ)しか着てはいけません。
くわえてこの高下駄です。転びやすいのはもちろんなにしろゲタ
ですゲタ。鼻緒は可愛くしてあるけれど、パンプスとかローファー
とか履いてるコの前じゃ恥ずかしくて仕方ありません。 |
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ではなぜそんな恰好をしなければならないのかというと、これが
例の伝統という他に明確な理由がありません。そしてなお悪いこ
とに我々は誰一人としてその所以を説明できないし、それどころ
か疑問を持つことさえ禁じられているのです。 |
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新しきを否定して古きを重んじ、発展を望んでいながら退嬰の風
潮におもねる。偉大な陰陽師とはつまり、そんな矛盾だらけのお
かしな存在。魔法少女に憧れるわたしから、夢と希望を根こそぎ
奪う鬼のよーな…… |
ストーップ! ストップだサクラコ、それ以上言うな。九条の沽券に関わる。 |
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なによコケンて。ちゃんと説明してるじゃないのよー。 |
してない! なんだ鬼のよーって! 家業をそんなふうに言うやつがあるか! |
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だってホントのコトでしょー。マンガ読んでるだけで叱られるし、
アニメのDVDは取り上げられるし! もっと活字を読めってゆーか
らラノベ買ってくれば、いっつも六壬神課占法大全集にすり替え
られてンのよ? どーなってンのよほんと! |
どーなってるって? そりゃこっちのセリフだ! 冷静に考えて
みろ。胸に当たることはないか? 未来を嘱託される陰陽師とし
て、自覚に撞着するようなことはしてないか? |
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ないっ! |
ウソつけーっ! おまえここのところ修行もしないで、マンガば
かり読んでるじゃないか! |
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だからマンガ読んでるだけじゃん。そのなにが悪いのよ。 |
なにって……それじゃアニメはどうだね。毎晩遅くまでテレビつ
けて。育ち盛りの大切な時期に、そんな夜更かしばかりしてたら
ダメだろ! |
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そのぶん修行中に寝てるもん。 |
それもっとダメですって! |
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うるさいわねえ。うるちクンだってお爺ちゃんと一緒に観てるで
しょ、加納さんの屈辱とかいう。 |
……あれはいい番組なんだ。 |
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ゲバゲバ90時間! |
古っ! 長ッ! |
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いれぶんぴー……なんてったっけ? |
ああああ、九条の家格が貶められてゆく……。 |
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……ってゆーかウチ、家族一人につきテレビ一台あるンですけど。 |
と、とにかくだ。おまえは陰陽師なんだぞ? ましてや稀世の天
才とあらば、その身命には陰陽道の未来のための努力と研鑽にま
い進すべき使命が宿められているンだ。なればこそもう少しまじ
めに自分の務めと向き合わねばイカン。それこそおまえの好きな、
全力全開手加減なしってヤツでな。 |
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さすがうるちクン、わっかりやす〜い! |
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……とでも言ってもらいたいワケ? |
え? は??? |
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なによ、ワカってないわねえ。そーゆーのシッタカっていうのよ。
そのうえまるでお父さんみたいなこと言っちゃって、アンタわた
しの使い魔のクセに、生意気だっつーの。 |
使い魔いうな! 式神だっ! |
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それにやっぱり矛盾してる。みんなわたしを天才だっておだてる
クセに、口を開けば修行だの努力だの! なんなのそれ。どーゆー
こと? それは凡才のすることでしょ。……あ、むしろ非才って
こと? わたしバカなの? 死ぬの!? |
い、いやだからな。みんなおまえに期待してるンだよ。おまえが
あんまり優秀なもんだからさ、コイツならきっと、今の陰陽道を
さらなら高みへ発展させてくれるに違いないと、そう思ってるン
じゃないか。 |
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言うとおり、オレはおまえの式神だ。主人の力は誰より理解して
いるつもりだし、だからこそ今は、修行の必要などないことも知っ
てるさ。もちろんその、なんだ……オタク趣味っていうのも否定
なんかしないよ? |
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だけどな、おまえはいずれ人の上に立つ存在だ。名に負う九条の
全てを受け継ぐ立派な陰陽師なんだよ。そしてそれを認められる
だけの偉大な才能と資格には、大いなる責任が伴うことだって忘
れてはイカン。然るにおまえはもう少し、陰陽師らしくしている
べきなんだよ。 |
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やだ。 |
少しはききわけなさいっ! |
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やだ! それこそ余計なお世話よ。アンタ、ホントにわたしのコ
トわかってんの? わたしはね、陰陽のことならなんでも知って
るし、考えるより先に答えがわかる。霊力だって誰より強いし、
どこの家の誰と腕くらべをしたって負けたことなんてない。わた
しこそキング・オブ・あすとろじすとだっつーの! |
クイーンじゃなくてか? |
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クイーン・オブ・あすとろじすとっ!!
……それにね、そんなだから今の陰陽はダメなのよ。 |
え? |
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古臭いモンにしがみつきすぎ。世界は新しいもので溢れかえって
いるのに、お父さんたちはそれをちっとも見ない。それどころか
なんでも否定して理解もしないで、だからワケわかんなくなって
最後には結局、下らない下らないってバカにする。そうやって意
地張って、時代について行けない自分の弱さを正当化してるのよ。 |
お、おまえ父上になんてことを…… |
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川を塞き止めようったってムダなの。流れのある限り、削れてい
くのは岩のほう。どれほど盤石だって最後には必ず、こっぱみじ
んになって消えてしまうの。 |
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そう。いくら陰陽師だって時の流れには逆らえない。だったらい
つまでも岩みたいに頑なになってちゃダメ。これからの陰陽のた
めにも、九条のためにも…… |
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……わたしはきっと、変わらなくちゃいけないのよ。 |
サクラコ、おまえ…… |
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旧格の全部が悪いとは言わない。歴史があるからこその陰陽師だ
し、古きを訪ねて新しきを知るのはとても大事。だからこそ今日
のわたしがあるンだもの。でも捨てるべきは捨てなくちゃ。いろ
んなモノを見て、触れて、得るべきを得て…… |
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……わたしはきっと、変わらなくちゃいけないのよ。 |
なぜ二度言う。 |
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た、大切だからよ、すごく。変転恒なるのが時代なら、わたしは
きっと、魔法少女へクラスチェンジ…… |
結局それか! なんだかんだ言っておまえ、結局コスプレごっこ
がしたいだけだろーっ! |
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ちっ、ちがうでしょ! やだなこのワンちゃんたら、あはあはは。
今の話、ちゃんと聞いてたぁ? |
聞いてたよ!
なにが陰陽のためだ、危うく納得しちまうところだったぜ! |
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……ち。へんによく出来てるわこの式神。さすが、わたしがこさ
えただけのことはある。 |
なんか言ったか。 |
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なんでもないわ。それよりねうるちクン。 |
なんだね。 |
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大功を成すものは衆に謀らず、よ? わたしは誰の言いなりにも
ならない。誰が何と言おうとオタクはやめないわ! |
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だってそれがわたしの強さだもんお父さんや仲間の未来のために
も、わたしはきっと魔法少女になってみせる! |
……は〜、開き直っちゃったよこの人。 |
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そしてエース・オブ・エースになる。 |
わかったわかった。もー勝手にしなさい。 |
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……そしてアンタを使い魔って呼ぶ。 |
え!? それはやめて。よして! |
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どら〜いぶいぐにっしょん! |
オチ……なのか? |
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というわけで陰陽師でした〜。
ちょっと雑な説明になっちゃったけど、天才のわたしには自明す
ぎることばっかりでうまく言えません。これ以上はググってもらっ
たほうがいいと思います。 |
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それじゃ飼い犬が手を咬むのでわたし、ここで帰ります!
あはははは! |
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