|
〜その4 タコはイボイボ、ニワトリゃハタチ。オタクはいくつで嫁に行く〜
|
新春のお慶びを申し上げます。皆々様方良き新年をお迎えのことと存じ
ます。昨年中は並々ならぬご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。私ど
も、本年も昨年同様、倦まず弛まず精進してまいる所存ですので何卒、
よろしくお願いいたします。不肖陰陽師ながら謹んで、皆様のご健康と
ご多幸をお祈り申し上げます。 |
今年が皆様にとっていい年でありますように。 |
|
|
さて始まりました! 騒動魔女長談義四回目。もうね、今年一回目とい
うことで今回も素敵なゲストをお呼びしてありまーす!
蒼穹は遥か高みの雲の上、天空の城ティリシからやってきたユーキ・ロ
ンゲートちゃんです! |
なに!? |
|
……んおお〜、なんだぁ、ここ? なんだかボロっちいとこだなー。 |
|
|
うわ、かわいい! ああん、わたしヤバいかも! ささどうぞ、こっち
へ来て。そこにすわって! |
お、おいサクラコ、大丈夫なのか? アクアの話によればコイツ、ずい
ぶん問題児なんだろ? |
|
|
平気よお。こんなに可愛いんだモン! それにね、今日はすっごい楽し
いご本持ってきたから。これ読んで聞かせたらきっと、夢中になって大
人しくしてるわ。ね〜、ユーキちゃん! |
気安く呼ぶな。 |
|
んで、そりゃなんて本だね? |
|
|
んっふふふ、聞いておどろけうるちクン! 発表直後、世間を震撼させ
た話題の本。構想五年にして未完の大作。今をときめく新進気鋭の同人
作家、九条櫻子が真心をこめて贈る新春長編時代劇「魔法少女シバ刈る
ぴーち」…… |
ぐー…… |
|
|
あ! なにようるちクンたら、起きなさいよぉ! |
ううう〜、まァたおまえの妄想話かよぉ……。 |
|
|
んな、創作よォ! 失礼しちゃうわね。言っとくけどこれ、ホントに話
題騒然だったンだから!
|
そりゃな、名に負う九条の跡取りが、公務も修行もそっちのけで同人誌
書いてりゃイヤでも世間は騒ぐわな! |
|
|
公務だってちゃんとしてるでしょ。わたしが一度でも失敗したことって
ある? |
……おいおまえら。人を呼びつけといてなにごちゃごちゃ言ってる?
あたし退屈なんだけど。それにおなかすいた。 |
|
|
あ、ごめんごめん。えへへ、この使い魔ったら、どうにも生意気でね、
つい。 |
んなもん、蹴っ飛ばしときゃいいだろ。下僕が言うことを聞かないなん
て主人の恥だぞ。あたしならボッコボコにぶん殴って血ダルマにして、
逆らおうって気さえ起こさせないね。 |
|
……いやあ怖いわ。たぶんオレ、ダメだわこのコ。 |
|
|
大丈夫。ちゃんと心得てる。ツンデレにはね、毅然としていればいいの。
ツンさえくじいちゃえば、あとはデレしか残らないンだから。ホント、
可愛いもんよ。 |
可愛い可愛いって、なんだおまえ。さっきから馴れ馴れしいぞ。 |
|
|
そんなこと言わないの。今からお姉ちゃんがご本を読んであげるから。
ね、だからそこでおとなしくしてるのよ? ってゆーかちゃんと聞くの
よ? あとで感想聞くからね? わかったわね!? |
ンな、なんだよォ。おまえの同人誌なんて、そんなモン面白いのかぁ? |
|
|
面白いわ。聞いていればわかるから!
……平凡な村娘だったはずのわたし、ピーチに訪れた突然の事態。渡さ
れたのはカマ…… |
いいかげん怒られるぞ。いろんな人に。 |
|
|
そ、そおね。えへへへ、それはちょっと思ってたンだ。それじゃここは
省略ね。……魔法少女シバ刈るピーチ、始まります。 |
|
むかしむかし、人里離れた山の奥の一軒家におばあさんと五〇過ぎにな
るニートの息子が住んでおりました。
|
なんだかいきなり重いなァ。 |
|
|
杉の木のうっそうと生い茂った深い深い森の中、葉っぱの間からのぞく
空が茜色に染まる夕暮れ時に、ようやく起き出したニートの息子がカマ
を片手に扉から出てきました。
|
|
今日もオレのデバイスはゴキゲンだぜ。おい母さん、オレはちょっくら
山へシバ刈りに行ってくるけどよ、だから母さんは…… |
ねー。どうして昔の人は山へシバ刈りに行くの? ンなモン刈ってどー
するんだ? |
|
|
そこは気にしないでいいの。でも芝じゃなくてたぶん柴よ。タキギのこ
と。なんにしてもただのセオリーだから…… |
いやいや全然セオリーじゃねーだろ。なんだニートって。だったらせめ
て朝から行かせろよ。 |
|
|
んもー、朝から働いたらそんなのニートじゃないでしょ。わかってない
わねえ。 |
つーか、ニートじゃないとダメなのか? |
|
|
そーじゃないけど! そこ、ほんっとーにカンケーないから黙ってて。 |
|
……だから母さんは洗濯に行っとけよ。オレの抱き枕カバーコレクショ
ンがすすけてきてるぜ? はいはい、わかりましたよ。まったく、年甲
斐もない困った息子だよ……。
ご近所には誰も住んでいないにせよ、ともすると世間体とかに悩まされ
ているおばあさんはカゴ一杯の抱き枕カバーを抱えると一人、とぼとぼ
と山を降りて行きました。 |
枕カバーって、おまえも持ってる萌えのヤツか? |
|
|
そ。結婚してなくて子供がいないから代わりに二次元コスパの萌えグッ
ズとか愛でてるの。んでね…… |
ちょっとタンマ。あのね、あたしおなかすいた。 |
|
|
おなかぁ? んもー仕方ないわねえ。それじゃそこの梅干しでも食べて
なさい。 |
うめぼし? なんだそれ? |
|
|
それよ。供物皿の上の。 |
これ? ……なんだこれ。なんだかしわくちゃだぞ。ホントに食べ物か? |
|
|
見てくれが悪くたって美味しいのよ。それ食べていい子にしててね。
さて。山のふもとの川辺についたおばあさんは……
|
ぶへーーーーっ! |
|
|
わ、なになにっ!? 火星の極冠爆破っ!? |
んなわけあるか! |
|
す、すっぺえ〜! なんだこれ鬼のよーにすっぺえ!
……ってゆーかすげえまずい〜……ぺっ、ぺっ!
|
|
|
ちょ、ユーキちゃん! あなた人に向かってそんなぺっぺぺっぺ、いくら
可愛くてもお姉ちゃん怒りますよ!
|
うるせーっ、おまえこれ毒だろ! こんなもん食わせやがっておまえ、あ
たしを殺す気だな!? |
|
|
わたしがそんなことするわけないでしょ。誰より魔法少女が好きなのに。
見てなさい。梅干しなんてね、こんなもんこうよ!
……あむっ! ……んむ、んむ。 |
んお……おおぉ…… |
|
|
んっ、んう〜〜っ……酸っぱくて美味しい! ほら、もう一つ食べてごら
ん。お腹空いてるんでしょ。
|
……いい。なんか今のおまえの顔、恥ずかしかった。 |
|
|
なによ。それならもうちょっと黙ってなさいね。この先すごく面白いから。 |
|
……さて、山のふもとの川辺についたおばあさんは、カゴから抱き枕カバー
を取り出すと、一枚一枚丁寧に洗い始めました。ツーウェイトリコットは
滑らかで伸縮性に富み、触り心地の大変良い生地ですが、なにぶんにも脆
いため、丁寧に揉み洗いをしなければなりません。取りも直さずキズでも
つけようものなら、ニートの息子が暴れるに決まっているので細心の注意
が必要です。 |
|
最近ではスムースニットという、とても印刷映えのする新素材も増えてき
ています。加えて十分な伸縮性を持ち、ツーウェイトリコットよりも丈夫
なので洗いやすいという利点もあるのですが、安価なためか、質感に若干
の起毛感があります。ですので触り心地にこだわりのあるニートの息子は
これがあまり好きではないらしく、カゴの中には一枚もないのでした。
|
|
ですが実のところ、一番多く持っているのはサテンのモノなのです。印刷
だけに特化した伸縮性ゼロのこの素材はとても低コストなため、雑誌の付
録などにも多く用いられます。触り心地はただツルツルで温かみに欠ける
ものの、日々の暮らしで精一杯なニートの息子はこれに甘んじるほかはな
く、コレクションの大半を占めているのも必然であると言えましょう。 |
おまえ、なんのハナシしてんだ? |
|
|
そうして最後の一枚を洗い終えるとおばあさんはふーっと大きな溜め息を
つきました。抱き枕カバーって実は乾かすほうが面倒なんです。印刷物で
あるがゆえに色褪せの原因である天日にさらすのは厳禁で、それなら一体
どーすりゃいいんじゃい! ってゆーハナシです。この時代に乾燥機なん
てあるはずもなく、腰が悪いにもかかわらずかがんで乾いた布で水気を押
し取るほかないおばあさんは、その痛苦をを思い起こすとめまいすら覚え
るのでした。 |
|
が、そのときです! |
…………………… |
|
|
川の上流になにか見えるではありませんか。
……え? もも? 肉まん? って、なんでですかぁ〜。それじゃおっき
なお尻だ間違いない! ってなんでですかあ〜! などと比較的新しいネ
タを弄しつつ目を凝らしてみればそれはやはり桃でした。しかもおよそ30L
はあろうかという見たこともない特大サイズ。そんな超巨大桃が浮きつ沈
みつドンブラコドンブラコと流れて…… |
ドンブラコって、なに? だれ? |
|
|
いやいや、ドンブラコはニュアンスっていうか、なんて言うのかな…… |
擬声語ダナ。水の音をあらわしている。 |
|
|
そ、そうそれ。そう言おうとしたのよ。
んでね、大きな桃が流れてきたのでおばあさんはそれを両手でがっちり掴
むと、一気に川から引き上げました…… |
うそだろ! そんなにでかいモン、腰が悪いのにすげえなあ。あたしどっ
ちが力持ちだ? |
|
|
じゃ、じゃあ……これが火事場のクソ力かと思わなくもなかったおばあさ
んは、やっとの思いで桃を担ぐと根性で腰の痛みを忘れ、よたよたと家へ
と戻りました。
|
枕カバーも忘れちゃってるぜ。 |
|
あ、そりゃまずいよ。ニートの息子暴れるじゃん! いひひ、こりゃどっ
ちか血を見るな! |
|
|
……あのねアンタたちね。細かいことばっか気にしてないで、ちゃんと聞
いてなさいよ。さっきからちっとも進まないじゃないのよ。 |
あ! もしかしてすげー残酷なハナシなのか? それで話題騒然なのか? |
|
|
全然ちがうから。いいからユーキちゃんも黙ろうね。じゃないとお姉ちゃ
んもね、そろそろ気のいいお姉ちゃんじゃいられなくなるかもよ? |
|
……さて、おばあさんが家に戻ってみると息子はまだ帰ってきていません
でした。土間を上がると台所の真ン中に桃を降ろし、とりあえずはと、ちゃ
あんと持ってきていた枕カバーの乾燥に勤しむのでした。これで息子が暴
れることもないし、血を見ることだってありません! |
ちぇ。……んお? |
|
|
おまけにこの巨大桃があるのです。まるで童心そのものの体たらくで喜び
はしゃぐであろう桃好きの息子を想うと、おばあさんは我にもなく眼を細
めるのでした。 |
|
思えば可哀そうな息子です。物心つく前に父親を亡くし、大変な苦労をし
てきたのです。せめておまんまだけは食べられるようにと実業家の叔父に
預けられ、しかし叔父の会社が倒産すると叔父の友人のいとこに引き取ら
れ、でもそのいとこが角刈りで実はおばあさんの姉の友だちの上司の顧客
のヒドイ暴力男で、やっとの思いで逃げ出したところを上司の行きつけの
飲み屋のママに拾われてママの腹違いの妹の友だちの旦那の部下の先
生の教え子のオタクの仲間の…… |
わかんねーよっ! 誰だ角刈りィ! |
|
|
と、とにかくあちこちを転々として息子は結局、この貧乏な家へ戻ってき
たのです。オタクになっていたのも含めてあにはからんや、二十数年にも
わたる流転の境涯に身をやつし孤独に耐えて生きてきた息子を見ておばあ
さんは誓ったのです。もう二度と息子を手放すまいと。 |
|
……感動よね。 |
魔法少女が出てこねえ。 |
|
………………………………………… |
|
|
もうすぐ出てくるの。
……そんな感慨にふけっていると、そのとき外で物音がしました。息子が
帰って来たのかと思い、おばあさんは涙の滲んだ眼を拭うと元気に息子を
出迎えるべく勢いよく扉を開けました。 |
|
お帰り息子や。今日はいいお土産が……
しかし、その先の言葉が紡がれることはありませんでした。おばあさんの
顔からは布巾で拭き取ったように笑みが消え、辺りには沈黙だけが漂いま
した。なぜならば、そこにいたのはニートの息子ではなく、かつて息子に
暴力をふるい続けた恐るべき角刈りのオトコだったのです! |
角刈り出てきたよ!? |
|
|
眼を見開くおばあさん。ほとばしる緊張! 角刈りは自分の半分ほどの背
しかない老婆をぎろりと睨みつけて、傲然と言い放つのでした。
……おうコラ。息子出せや。あのカスにはたんまり保険をかけてあンのじゃ。
出さんのならババァてめえ。てめえを海に沈めてから山に埋めてやるぞ!
閻魔大王の恫喝とはかくやあらん、おばあさんは戦慄しました。 |
そりゃするわな! せめてどっちかにしてやれよ。 |
|
|
にじり寄る角刈り。あとじさる老婆。二人を分かつのは殺伐たる空気のみ
であった。そしてそれとてもはや、角刈りの放つ悪意にどす黒く塗り潰さ
れていくのである。 |
変わってる変わってる。 |
|
|
角刈りがぬうっと身を乗り出すっ! ヤツデの葉よりも大きな手が老婆の
白髪を掴むっ! 咄嗟に思い浮かべたのは息子のことばかり。さりとてそ
こに姿はなく、髪を掴み揚げられた老婆の脳裏には、これまでの思い出や
後悔がぐるぐると駆け巡るのであった! 人はそれを走馬灯と読んで忌み
憚るのだが、意識の遠のいてゆく老婆はもはやそれすらをも思わぬまま、
ただ漫然と死を覚悟した。いや、そうすることしかできなかったあ! |
|
……さらばだ息子よ。薄れゆく意識の片隅でそう思ったその刹那、しかし
おばあさんは見たのです。台所で異変が起きているのを。 |
もも? |
|
|
初めはなにかが燃えているのだと思いました。しかし死力を尽くして眼を
見開いて見れば、それが奇跡であることにはすぐに気が付けました。見れ
ば角刈りも驚いています。それもそのはず。ただでさえバケモノのように
大きな桃が、今度は光り輝いているのですから。それこそ燃え上がらんば
かりに煌々と……まるでその場の悪意を吹き払わんばかりに燦然と! |
|
……いい? 来るわよ魔法少女!
ここいいトコだからちゃんと聞いて……あ〜〜〜〜〜〜っ!? |
なっ、なんだっ!? 火星の極冠爆破かっ!? |
|
|
……って、なんでですかあ〜〜〜っ!
|
|
んあ? ……むぐ、んぐ。 |
|
|
ちょっとユーキちゃん? アンタ静かにしてると思ったら、なに食べてン
のっ!? それ、その箱! そのサクラモチどこから出したのよ! わた
しが隠しといたやつじゃないのよ!
|
え、おもち。そこの御膳に下にあったから……はむっ。 |
|
|
ちょっ……なに平気な顔してんのよ、返しなさいよッ!
……あー、もう二つしかない。あっという間にこんなガッツ食いして、ア
ンタなに考えてんのよ、もーっ! |
い、いやあ、美味しかったぜ? ウメボシと違ってさ……。 |
|
|
そりゃそうでしょうよ。最高級の道明寺だもン。あーもう、わたしのサク
ラモチぃ。あとで食べようと思って楽しみにしてたのにィ! |
いやまあいいじゃねえか、サクラモチくらい…… |
|
|
よかないわよ! めったに手に入らないのをネットでようやく見つけたの
よ? いくら可愛い魔法少女にだってね、やっていいことと悪いことがあ
るの! どーしてくれンのこれ。このやるせない気持ち! |
あー、あれだ。いひひ。お話の続きを聞かせてよ。で、どーなるンだ角刈
り。桃に食われちゃうのか? なー、教えてよドンブラコぉ…… |
|
|
誰がドンブラコかっ! サクラコよサクラコっ! |
あっ、ごめん! ……えと、にゅふひひ。悪気はないンだぜ? |
|
|
ふうん。でももーいいわ。わたしすっごいテンション下がった。今日はも
うやめ。終わり。とっとと帰る。 |
おいおい、なんだよこのしまらない感じ。最後まで読んでくれた人のため
にもせめておまえ、オチをつけてけよオチを! |
|
|
あーもう、うるさいうるさいっ! サクラコ疲れたシャワー浴びたい眠い
着がえたいチョコ食べたいバナナ食べたいおなか空いたもう歩きたくな
い〜っ! |
……そっちきたか。 |
|
バリツっ! |
|
|
というわけで陰陽師でした〜。
ユーキちゃんは結局なにしに来たのかって? んっふふ、それはわたしに
もよくわかりません。まあでもあの後、よく言って聞かせたしちゃんと仲
直りだってしましたよ? 意地っ張りでちょっと乱暴なところもあるけれ
ど、それ以上に天真爛漫でとっても可愛い魔法少女でした! ああなりた
いかって言われたら、だが断る! って感じですけどね。 |
いやいや、それより肝心のシバ刈るピーチが出てきてないんだけど。 |
|
|
それはまた今度よ。楽しみにしてて。
まあとにかく、それじゃ今日はこのへんで。とっても可愛いユーキちゃん
が大活躍する「トラブル☆ウィッチーズねぉ!」は、Xbox360 Live アーケー
ドにて今冬配信予定です! みんな、よろしくね! |
|
|