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〜 その5 三三六歩で引け目がないという 〜
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……うわ!? ねねねね、みてみてうるちクン、わたしやばい! お腹
のよこ、ほらここ! なんかびみょーーーにたるんでない? おもち食
べすぎかな、ぜったい正月太りだよねこれっ! どーしよ……こないだ
買った貧乏姫のコス入らなくなったらどーしよっ |
いやもう始まってるみたいだが…… |
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え……ぎゃ!? ……あは、あははは! い、今のウソ、わたしたるん
でない。ほら! 今日も元気いっぱい…… |
慌てるな。おまえの身体のどこに、肉付きのいい場所があるってンだ。 |
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……なによそれ。どーゆー意味よぉ。 |
聞きたいのかね? |
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さ、さて始まりました! 騒動魔女長談義五回目。もうね、こんな性悪
ワンちゃんほっといて、早速ゲスト呼んじゃいましょうね。えーと今日
は…… |
……えへへ、もういたりして。 |
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あ! どうぞどうぞ、こちらへ! えと…… |
ラーヤです! アークトゥルスの。どうもはじめましてサクラコちゃん。
今日はこんな素敵なところへ呼んでくれてありがとう! 私ね、いつも
宮廷にいるでしょう? お外に出ないってことはないンだけど、あんま
り友だちとかいないのよぉ。だからね、今日はサクラコちゃんに会える
の、すっごい楽しみだった! |
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そーなんですか! よかった。でも意外です。こんなに明るくておキレ
イなのに、お友だちがいらっしゃらないなんて。 |
う〜ん。敬して遠ざけられるっていうのかなあ。街のコはみんな、わた
しを見ると土下座とかするのよね。 |
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どげざ! ひれ伏すのではなくて? |
あ! ど、土下座じゃないよね……土下座じゃヘンだもんねェ! あは
はは! そお、ひれ伏しちゃうのよ。がばーって。そりゃまあいちおう
皇女ってことにはなってるけどさ、私なんてそんな大した人間じゃない
のよ? 身分を除けばみんなと同じか、それ以下のアホ娘なのに、こっ
ちが恐縮しちゃうってもンよ。 |
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そ、そんな。一国の皇女さまをそんなふうには…… |
あ、いいのいいの! 本当に気なんか使わないで! 私なんてね、ただ
のヘッポコなんだから。ホントなんにも出来ない役立たずのすっとこどっ
こいで、ついたあだ名がなんと、ノンポリのほほん皇女! あはははっ、
うまいこと言うって思わない? |
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ふつうに畏れ多いと思う。 |
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むしろ怒っていいと思う。 |
ううん。それはいいの。みんながそういうなら、きっとそうなんだし。私
ね、ホントにただのバカだけど、でも正直でいようとは思うんだ。ウソは
きらい。どれほどの言葉や体裁で着飾たって、そんなの自分じゃないモン。
誰になんと言われても、私はいつも本当の気持ちで楽しんだり悩んだりし
てたい。そうでなきゃ、つまんない。 |
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んふふ、だからサクラコちゃんもふつうにして。ほら、もう敬語もナシ。
自然体でいこーっ!
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そーですか……あ、じゃあわかりました! えへへ、それじゃわたしも遠
慮なく地で行くわ。 |
いやいやいや、おまえの場合、正体は隠しておいたほうがいいだろ。 |
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あーひどいうるちクン! そーゆーの差別っていうのよッ! |
あ、お腹のコトね? 悪いけどさっき、聞こえちゃった。 |
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ぁえっ!? ……あ、そそ、そーなんですよ、あはは! ホンのちょっと
なんだけど、そのぉ……たるんじゃって。でもわたし、そんなにおもち食
べたかなぁ。 |
運動してる? |
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毎日ゴロゴロしている。 |
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あ、なによう! 腹筋くらいしてるわよ。わたしだってレイヤーのはしく
れなンだからね! |
れいやー? れいやーってなに? |
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え、レイヤーっていうのはそのぉ……、えへへ、いろんな服を着るってい
うか、そうしてその気になるっていうか……。 |
ああ、つまりおしゃれをする人ってコトね? へぇ〜、レイヤーっていう
のかぁ。いいなあ、私もしてみたいなあ。 |
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う。なんか齟齬があるみたいだケド……まあでも、ラーヤさんならなに着
ても似合いそうだし、それだったらいいのかぁ。 |
ほんと! |
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うん! スタイルいいし背も高いし。これならフツーにプトレマイオスの
戦術予報士とかできそう! |
ぷとれま……なに? |
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ああいやっ、な、なんでもない! なんてゆーかセクシーだなーって、あ
はあはは! ……その、ラーヤさんはなにか、スポーツとかやってるのぉ? |
スポーツ……っていうのは特にしてないンだけどぉ、そおね、身体を動か
すのは大好き! ウチではシェーシャと……あ、シェーシャっていうのは
唯一の親友なんだけどね、そのコといっつもダンスしてるんだ。こう、腰
くねくね〜〜〜って。 |
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腰くねくね〜〜〜ってね。 へえ〜、どーりでスタイルいいわけだぁ。ほ
ら、見てみなさいようるちクン、ラーヤさんのお腹。ぴしっと引き締まっ
ててちゃんとくびれてて。なんだかホント、美少女アニメの女のコみたい
なカラダよね。うらやましいなぁ〜。 |
いやあ、おまえだってじゅうぶん引き締まってるぜ? 上も下もな。 |
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はいはい。どうせわたしは全体的に薄っぺらですよーだ。
でもそうねぇ、こんなカラダになれたら素敵よねぇ。そしたらきっと、コ
スのレパートリーだって格段に増えるわけだし。てゆーかこのカラダなら
それだけで何らかのコスだわよねぇ…… |
なにぶつぶつ言ってるの? |
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ううん、こっちのことよ。どーしたらラーヤさんのカラダを手っ取り早く
手に入れらるかなぁ〜って。……むふひひ。そういや九条流の奥義には、
精神憑依の術があるのよねぇ。 |
逃げたほうがいいぞ。コイツ、おまえさんのカラダを乗っ取る気だ。 |
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ぅえあ!? ちょ、ちょっとよしてよねえ。こんなのは誰だって手に入れ
られるンだから。毎日少しダンスして、それを続ければいいだけなのよ?
そうすればお腹のたるみなんて、すぐに解消できる。それにほら、身体動
かしたらイヤなコトだって忘れられるしさぁ。 |
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あ、そうだよね。それわかる。ってゆーかわたしの場合、ヤなことがあっ
た日は悪霊退治にも力が入るっていうか、そーやってストレス発散しちゃっ
てるもン。じゃないといつまでも頭ン中グジャグジャしちゃって、そーゆー
ときってアニメ見ててもマンガ読んでても面白くないし、ダメなのよねェ。 |
ダメっておまえ、そーいうつまらん目的で仕事してんのか。 |
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つまらんってなによぉ。わたしにだってね、ヤなことたくさんあるンだか
らね。蹴鞠中継が延長しちゃってビデオ録画ずれまくってアニメの最終回
見損なったとか、ゲマズでお目当てのポイント特典もらいに行ったら前の
ヒトので最後だったとか、番くじなんて目の前にまだABC賞ずらーっと
並んでるのに、十回ひいてHHHHGHHGHHだったとか! |
千部刷った同人誌が九部しか売れなかったとか、某、超有名STGのオマー
ジュ作ったら版元から発禁の内容証明送られたとか? |
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ちょ、アンタやけにエグるわね〜。よしたほうがいいわよ? |
ああ、そうだな。正直スマンカッタ。 |
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私もねェ、実はいろいろあるんだよォ。私の叔父さんってばアークトゥル
スの王様なんだけどさ、これがもーいつだって口やかましい人でねえ。私
のコト呼びつけちゃあ、立派な人間になれだのもっと皇女らしくしろだの、
お説教ばっかりするの。
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あーわかる。世間体でしょ? ウチのおとーさんもそんなのばっかりだモ
ン。九条の跡取りが遊び呆けてちゃまわりのモノに示しがつかないって、
すーぐマンガ取り上げるし。テレビなんてね、リモコン隠すのよリモコン!
やりくちが陰険なのよ、ウチのおとーさん。 |
それは最近、おまえがあまりにもコタツと一体化してるからだろ。 |
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よけい気に入らないンですけど。 |
それに勝手よね。私のコトなんてなんにも知らないクセになんでも決めつ
けちゃってさ。口答えしようものならすーぐどかーん、よ。叔父さまった
らね、ものすごい癇癪持ちなのよ? アークトゥルスの皇女がそんなんで
どーするーっ! って、ものすごい勢いで怒鳴るの。そんなんてなによ。
私だっていろいろ考えてるわよ。やりたいこともあるし将来のこともある
し、なのに口を開けば身分身分って、だから余計にワカんなくなっちゃう
ンじゃない! |
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あーもーすっごいワカる、ちょーワカる! 自分の分限くらい弁えてるわ
よ、ッて感じなのよね! それがすごく大事なのだってワカってるし、だ
からこそ自分なりにいろいろ折り合いをつけてやってかなきゃッて悩んで
ンのに横からぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー! あんたはヤズカ・タカーミかっ
てもんよ! |
おまえ稼ぐじゃん。 |
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ホントよぉ。それに今は親が子供の未来を決める時代じゃない。ご先祖様
たちがどれだけ偉かったのか知らないけれど私は私! そーいう人たちと
同じになれなんて無意味だし、そんなこと言われたってムリよ。そー思わ
ないサクラコちゃん! |
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思う! そんなのお仕着せだわ。そりゃね、伝統の全部が悪いわけじゃな
いけれど、だからってそれを笠に着るなんてエゴよ!
あー、なんだか腹が立ってきた。わたし踊るわ! |
付き合うわよサクラコちゃんっ! |
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ウッーウッーウマウマッ!
ウッーウッーウマウマッ! ああ。 |
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……はあ、はあっ、ふぃ〜〜〜〜っ。は〜踊った踊った、あー疲れた!
えへへ、でもホントだ。なんかスッキリしちゃった…… |
ほら、なにしてるの、途中で休んだらだめだよぉ。 |
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あ、いや、わたしはもーいいわ。いつまでもくよくよしたって仕方ないし、
それにのど乾いた…… |
は? なに言ってるのサクラコちゃん。これくらいでへこたれてたらダメ
でしょ。 |
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え? あの……ラーヤさん? |
だからね、これじゃ踊り足らないって言ってるの。こんなんじゃぜんぜん
スッキリしないわ。 |
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ぜんぜん? うそ。わ、わたしはじゅうぶんだな〜。ヤなことったって、
もうネタ切れだし……。 |
私はちっともネタ切れじゃないモン! だってみんなひどいのよ? 口を
開けば自覚だの嗜みだの、毎日毎日飽きもせず変わり映えのないコトばっ
かり言って。そもそも皇女ってなに? なにするひと? 姫姉さまの従妹っ
てことしか私、ワカんないんだけど。 |
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ワカんないって、アンタそんな…… |
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じゃあ教えてよぉ! 自覚ってなに? たしなみってどーゆーコト? い
やむしろ私はなに? だれ!? どこでどーしていればいいのっ!? |
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あ、少し記憶喪失気味なのかなぁ。それならそうと初めから言ってくれれ
ば…… |
ちっがーう! 私は悩んでるの! 皇女皇女ってみんなは言うけれど、そ
れは立場のコトで私は私。そんな立派な人間じゃないし、姫姉さまみたい
になれって言われても困るのぉ! |
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あ……そ、そおよね。そりゃ確かに困るわよ。立派な人になれって言うの
はともかく、誰かと同じになれって言われても、ねェ。
ま、まあでも、それは逆を言えば、いろんな人に期待されてるってコトじゃ
ないかな? ほら、言ってもムダだと思う人には誰も怒ンないでしょ?
言われるうちが花っていうかなぁ…… |
なんかサクラコちゃん、さっきと言ってること違う。 |
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ぇあ!? そ、そんなことないわよ、ラーヤさんこそなに言ってるのよぅ。 |
いや、オレも違うと思う。おまえがそんなふうに思ってるなんて、意外だ。 |
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意外ってなによ意外って。言ってンでしょ、夢をかなえるためには、つけ
られる折り合いはちゃんとつけとかなきゃって。
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……私、折り合いなんてつかないモン。 |
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え? |
サクラコちゃん、やっぱり私をワカってない。私はね、ほんっと〜〜〜に
ダメなんだよ? ダメを通り越してダメダメのイモなんだよ!? |
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通り越すとイモなんだ。それはワカんなかったな……。 |
政治のことなんてわからない。だってずっと宮廷にいるんだモン。友だち
いないからケータイだって鳴らないし、世間のことなんて不景気ってこと
しか知らない。なのに新聞はラテ欄すら読まないし、テレビはお笑いバラ
エティーばっかり見てニュースは即ザーップ! それじゃいけないと頑張っ
てみても私ったら二分すると寝てンのよ? どーしようもないって思わな
い!? |
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あはは。……ニュ、ニュースは見るけど、わたしもどっちかって言ったら、
アニメ派かなぁ。 |
アニメしか見てねえよ。 |
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それにお勉強だってできない。先生はやればできるコだって言ってくれる
けど、テストの点はいつもひどいしそもそもやる気が起きない。だって微
分積分ってなんの役に立つの? 逆関数ってなに? なにがぎゃくなの?
今の時代に古文習ってどーするの? 濃硫酸は水酸化ナトリウムで中和し
てから捨てろって、そんな局面が普段の生活のどこにある? っていうか
お勉強ってどうしてするの!? |
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べ、勉強っていうのはその時々で必要とかじゃなくて、自分のしたいこと
をもっと楽しくするためにするっていうか。ほら、ドルアー○の塔だって
宝箱が出せなきゃつまんないでしょ? 逆に攻略本読んで一生懸命勉強し
てさ、それで宝箱出せるようになったら楽しいじゃない? それとおんな
じってゆーか、ちょっとしか違わないってゆーか……。 |
おまえ、なんだかんだいって成績いいもんなぁ。 |
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お勉強すると宝箱が出るの? どるあーってなんの科目? ワカんないよ
サクラコちゃん! |
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ど、どるあーじゃなくて…… |
それに私、炊事洗濯家事全般不可能なんだよ? 掃除すれば必ず花瓶
割るし、お料理すれば宮廷中の人が逃げ出すの。食器の後片付けなんて
私がやると廃棄処分と変わらなくなるし、お洗濯なんて給水と排水しかわ
かんない! こんなんじゃ絶対、お嫁になんかいけないって、毎日シェー
シャに怒られてる! |
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そおよ。私に出来ることといえば、ダンスと凶兆を予感することだけ。あ
とちょっとテトリス! ね、ダメでしょ私。皇女どころかふつうの女のコ
が出来るようなことだってなんにも出来ないの。なに一つ人の役に立って
ない。だからいっつも不安よ。将来を考え出すと不安で不安でたまらなく
て、だけど自分じゃやっぱりなんにもできなくて情けなくて、こんな自分
が私、ホントにイヤなのよぅ! |
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お、おい、あまり追い詰めるなよ。 |
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わたしじゃないわよ! |
……あ、そうよ。ノンポリじゃなくてポンツクよ。広がっちゃった歯ブラ
シと同じなのよ。私なんて真昼間から点いてる街灯みたいにムダで、デシ
リットルぐらいあってもなくてもいいものなのよ! |
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デシリットルて……あのね。どうしてそんなに自分を卑下するのか知らな
いけれど、ラーヤさんはもう少しその、自信を持つべきなんじゃないかな。
キレイだし、スタイル最高でカッコいいんだし、ちょっとは自分を飾って
みてもいいんじゃ…… |
そんなのだめ。私に必要なのは努力であって気休めじゃない。これは努力
なくして解決できる問題じゃない。 |
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ワカってるなら実践したらいいじゃねえか! |
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それが出来たら苦労しないのよっ! とにかく今の私は踊るしかないの。
付き合ってくれるわよね、サクラコちゃん! |
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ぁえ!? そおなのっ! |
そおよっ! こうなったらもう何もかもを忘れてオールナイト!
燃えて燃えて、ついでにサクラコちゃんのお腹のたるみも燃やしつくす!
♪バルサミコ〜酢やっぱいらへんでェ〜…… |
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ああうう〜……もう踊りたくないつかれたシャワー浴びたい眠い着がえた
いチョコ食べたいバナナ食べたいおなか空いた〜〜〜っ! |
まさかの二週連続だ!? |
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というわけで陰陽師でした〜。
もうね、たるみが取れたとかじゃなくてお腹割れちゃいました! サクラ
モチあと百個は食べてもいいって感じです。やっぱり努力って大切なのか
もねェ。 |
まさかそれが今回の教訓? |
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そおよ? だってね、何事も努力をしないと大成出来ないの。それじゃ自
信にも繋がらないし、自信がなくちゃ自分のやりたいことにだってどんど
ん消極的になっちゃうでしょ? そうするといずれ、自分が本当はなにが
したかったのかもワカんなくなっちゃうかもしれないし、そんなのつまん
ないじゃないですか。だから自分と夢を信じて頑張らなくちゃねってこと
を、ラーヤさんは身を以て教えてくれたのよ。 |
わっかんねーよ! |
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まあね。天才のわたしには努力なんて無縁の話だしぃ。おほ、おほほほ!
まあともかく、それじゃ今日はこのへんで。なんだか自分に自信のない
ラーヤさんがフラっと大活躍する「トラブル☆ウィッチーズねぉ!」は、
Xbox360 Live アーケードにて今冬配信予定です! みんな、よろしくね! |
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