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〜 その9 旅の途中 〜
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……あれま、明かりもついてないじゃないの。ちょっと! 誰かいないの?
ねえ、今日はお留守なの〜? |
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なによ、面白いのやってるっていうから寄ってみたのに。つまんない。
ねーちょっとぉ、誰もいないみたいよ……って、アンタなにしてんのよ、
出てきなさいよぉ。
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……そのほうこうにはだれもいない。 |
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いるっつーの。だからなにしてるのアンタ。なにコソコソしてンのよぉ。 |
だって、誰かいたらイヤだもの。 |
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アンタが来たいっつッたンでしょーが。それにこんなのはね、忍び込まれ
る方が悪いのよ。ってゆーかアンタ、これからもっといろンなことしなきゃ
なんないってのに、そんなんでどーするの? なんか情けなくない? もー
ちょっと魔女っぽくしてなさいよ。 |
どうやって? |
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どおって、例えばそんなところでモジモジしてないで、もっとこー堂々と
してるとかよ。ほら、出てこいっつーの! |
あ。 |
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んもー、世話の焼ける。少しはリリーを見習いなさいよね。
……あれ、あのコたちはどこ? リンクルとメルルは…… |
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とりゃーっ! おだんごたべろ〜〜〜っ! |
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えっ? ……はぐおっ!? |
たべてたべて〜〜っ! きゃはははは! |
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はぐあうわぐ……ふむぐぐぐ〜〜〜〜っ!
や、やえなひゃいアンハふぁひィ! |
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わっ、おこった。 |
おこった、おこったぁ! |
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おこた。 |
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ぶへえっ、けへ、こほっ! ……ぺっ、ぺっ、おえ。
……んな、なにすんのよアンタたち。いきなりこんなモン口に詰めて、お
姉ちゃんのこと殺す気!? |
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だってぇ、そこにあったから、おだんご。 |
食べたいかなーって思って。 |
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ンなもん食べたかないわよ。カッピカピに乾いてンじゃないのよう! |
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かぴかぴ〜。 |
かぴかぴ〜。……くふふふ。 |
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なによそれ。なにが楽しーのよ。……ってゆーかこれ、お供えじゃない?
まったく、アンタたちなんつーいたずらすんのよ、こんな時にぃ。 |
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ほえ? まだ二時だよぉ? リンクルぜんぜんお昼寝なんてしたくない。 |
メルルも眠くない、眠くない〜っ! |
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じたばたしない! ほら、危ないからこっちおいで。おだんごはもーいい
から。そーじゃなくてね、もう少しでお別れでしょ、スノーお姉ちゃんと。 |
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スノーベリー? ……スノーベリーどっか行っちゃうの? |
え〜、どこ行くのスノーベリー。 |
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んもぅ、さっき言ったじゃない。お仕事よ。お仕事で遠くに行くからここ
でお別れ。しばらく会えなくなっちゃうのよ? |
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お仕事ぉ? ニートなのに? |
にーと、にーとぉ! |
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ニートですってぇ? ぷくく、あっはははは! そおよね〜、スノーお姉
ちゃん、ずっとおウチにいたもんね〜。 |
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うん。ずっとお料理とかお洗濯とかしてた〜。 |
あとメルルのお着替えもしてくれた〜。 |
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それならせめてメイドと言ってください。 |
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メイドね。メイドってゆーかさ、そこはやっぱりちゃんとお姉ちゃん……
だったわ。おかげであたしも作業に専念できたしさ。その、なに、感謝と
か……い、一応してる。ママがいない間、あたしたちの面倒見てくれてさ、
助かったわ、ホント。 |
は。心にもないことを。 |
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うわァ、どーゆー意味よそれェ! ホントに感謝してるっつーの! |
あなたが一番ワガママだった。 |
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……なによ、こんな時にダメ出しなんて、しないでよう。 |
あなたは少し、しっかりしすぎる。だから、人一倍疲れてしまう。 |
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……………………。 |
……へんじがない。ただのしかばねのようだ。 |
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生きてるっつーの! んもーアンタまでふざけないでよう。あたしたち、
一緒にいられるのも今日が最後かもしれないのよ? もー少しちゃんと楽
しみましょーよ、ちゃんと。 |
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えー、でもやってないよぉ? 漫才。 |
まっくらまっくら。 |
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……そおなのよ、それが問題なのよ。おっかしいわねえ。なんかみょーな
ちんどんやの傘芸、パレスんトコじゃ確かに毎週金曜にやってるて聞いた
のに、どーなってンのかしら。 |
もしかしてネタ切れなのでは? |
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はぁ? なによそれダッサ。こんなにキャラいて13回もロクに回せないっ
て、やばくない? ってゆーかさ、そもそも騒動魔女ってなに? とらぶ
るうぃっち〜? これホントに面白いの? |
評判はかなーりびみょーです。というかほぼ無反応。 |
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なによそれ。アンタそんなの見たかったの? |
ええ。なにかお力になれるかな〜と思って。 |
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おちからぁ? まぁたそんなこと言って。アンタちゃんと自覚してる?
あたしたちがこれからすることワカってんの? |
まあ。なんとなく。 |
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なんとなくって、頼りないわねー。妹のあたしのほうが心配になっちゃう。 ……ま、でもアンタがボーっとしてんのは今に始まったことじゃないし、 なんだかんだいってアンタ、しっかりしてンのよね。ならいいわ。とりあ えず座りましょ。座って少しお話しするの。まだ時間あるでしょ? ほら、 リンクルもメルルも……って、アンタたちまだおだんごいじくってンの? 食べもので遊ぶとバチあたるンだから、よしなさい。
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はぁい。……んしょ。
じゃあさチャイムぅ、よりかかっていい? |
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おいで。だっこしててあげる。 |
あ〜んメルルも〜……。 |
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はいはい。……あれ、コートの中入るの? あ、それ引いてもダメ。 |
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んふふ、そのまま寝る気よこのコ。アンタのコートおフトンにして。 |
寝ないもん。メルルはお花のたねたねを数えるんだもン。 |
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リンクルもやるぅ〜! かあさまにもらったたねたね〜、まきまき〜。 |
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なに、アンタたちそんなのもらったの? なんだかトゲトゲしいタネね〜。
なんの花よそれ。 |
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しらなーい。でも森に植えてあげろって、かあさま言ってた。そしたらす
ぐ育つって。 |
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ふうん、森ね。エイヘムランドってトコに森あるといいわね。 |
うん。でもまだ着かないの、エイヘムランド。 |
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そおね。普通に飛んでったらあと一日ってとこかしら。でも、アラストフ
はもっともっと遠いわね。……あれ、アンタここからどっちに行くんだっ
け。 |
わたしはここから内陸へ入って北西へ。あなたたちはこのまま半島を縦断
して南を目指します。
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なんだか反対方向ね。でも北西にはもうリリーが行ってるはずよ? |
アラストフの向こうだもの。会えっこない。というかわたし多分、寒くて
動けないわ。 |
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アンタって寒いのヤなんだっけ。スノーベリーのくせに。 |
氷雪の魔女だからって、寒さに強いと思ったら大間違いです。 |
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誰が間違ってると言ったら、少なくともあたしの方じゃないと思うけどね〜。
ま、せいぜいあったかくしてることよ。体温低くしてると抵抗力が落ちて
風邪ひくわ。 |
それは平気。だって、寒すぎて風邪のウイルスすらいない。 |
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あたし、エイヘムランドでよかったわ。 |
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ねー、エイヘムランドについたらなにするの? ハンバーグ食べられる? |
メルルもハンバーグがいい〜。 |
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んああ、そおね、でもまずは住むところを探さなきゃ。なるべく目立たな
くて広いトコ。それが見つかったらお買いものね。着替えでしょ食器でしょ、
食糧にあと家電。ハンバーグはその後かなぁ。 |
準備は出来ているの? かあさまの言いつけどおり。 |
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……ええ、そっちはね。現地で部品をどうにかして、もう少し機構部分を
固めなきゃだけど、そうね、今度のは最高傑作と言っていいわ。たぶんど
んな魔女にだって負けないし、街中で動かすのが忍びないくらいよ。 |
危ないの? |
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そりゃまあ……。なにせ戦艦だもの。その気になれば取り返しのつかない
ことだって出来ちゃうわ。でもママは脅かすだけでいいって言ってたし、
あたしだってそのつもりよ? バンバン威嚇射撃して脅かしてやれば、み
んな怖がって言うこと聞くでしょ。 |
……うまくいかなかったらどうする? |
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絶対にうまくいくわ! だってあたしたちにはこのカケラがあるもの。誰
にも負けはしない。 |
カケラ……。 |
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それリンクルも持ってるよ〜。 |
メルルも、メルルも〜っ、ほら〜! |
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ああ、そうね、そうね。だってママはみんなにくれたんだもの。これがあ
るかぎり、あたしたちは大丈夫。なんでも出来るし、誰にも負けない。きっ
とぜんぶ、うまくいく。……そうよね、スノーベリー。アンタだってすぐ
にもどって来られるンでしょ? |
え。 |
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そしたらまっすぐエイヘムランドに来るのよ。その頃にはきっとあたし、
全部終わらせてお城乗っ取ってるから。
あ、そーゆー騒がしいトコがヤだったらね、どこか人目のつかないトコで
のんびりするのもいいわ。そうしてみんなでママたちの帰りを待つの。う
ん、そうしましょうよ! |
……一緒にいられるのは、今日が最後じゃなかったの? |
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んなっ、なに言うのよ! そっ、それはもしものこと! 機械の世界には
ね、運命とかってないの。物事には必ずいくつもの未来があって、それぞ
れに行き着く可能性というものはどんな些細なことであれ無視してはいけ
ないの! あたしはエンジニアだからね、その観点においてちょっと言っ
てみただけ。 |
じゃあ悪い方向へ行く可能性は低い? |
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ゲロ低よ! 当り前でしょ。あ、あたしの計算によれば、砂粒よりちっちゃ
くて見えないから、ふんづけたって気がつかないくらいよ。 |
そう。それならいい。人目につかないところで一生コソコソ暮らすのも、
悪くない。 |
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そ、そういう言い方はイヤだけど、でも……そうよ。またみんなで一緒に
暮らせるなら、それだって悪くない。ママだって、きっとそのために頑張っ
ているんだし、そしたらあたしたちだってしっかりしなきゃ…… |
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チャイムぅ……そしたらリンクルたち、おうちに帰れる? |
メルル、早く帰ってかあさまに会いたい〜、んぅ〜〜……。 |
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も、もちろんよ。すぐ会えるわ。ちゃんとママの言いつけどおりにしてい
れば、なんの問題もない。だってあたしたちのママはアマルガムよ? 偉
大な魔女なンだから! |
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だからきっと平気なのよ……きっと、きっとぉ………… |
おいでチャイム。……ほら、姉さんに肩を抱かせて。 |
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うん…………お姉ちゃん……スノーお姉ちゃん。 |
ん。 |
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……ママは、ママはどうしちゃったのかな。あたしのこと、前はあんなに
褒めてくれたのに、突然あんなふうになって、一体どうしちゃったのかなぁ。 |
わからない。わからないけど、でもチャイムの言うとおり、今は私たちが
しっかりしなきゃダメ。もう後戻りはできない。このカケラはそういうも
のだから。 |
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……うん。 |
でもこれだけは覚えておいて。このカケラはね、決して未来なんかじゃな
い。わたしたちの行く先はね、わたしたちの中にしかないの。だからこそ
自分を信じなきゃ。なにがあっても自分と、わたしたち家族を信じて、自
分の正しいと思ったことだけをするの。 |
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そうすればきっとだいじょうぶ。きっとまたみんな、優しいかあさまに会
える。 |
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ア、アンタもきっと帰って来るのよね……絶対、また会えるのよねっ? |
会える。これはそのためのお別れだもの。 |
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……ね、あたしたち、アンタと行ったらダメかしら? ほら、あ、あたしっ
てさ、天才のワリにはお料理もお洗濯も出来ないでしょ? それにみんな
でいた方が心強いし、このコたちだって…… |
ダメだよ。わたしたちはもう進み出しちゃってるの。言ったでしょ、もう
後戻りはできないって。 |
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……ワカってる。ちょっと、言ってみただけ。 |
そう。それならいい。それじゃわたしはそろそろ行くね。 |
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えッ…… |
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え〜、もう行っちゃうのスノーベリー? |
おしごとぉ? |
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そ、お仕事だよ。それにあなたたちも、日が暮れる前にクリューネの街へ
着かなきゃダメ。その先からはどんどん暖かくなるけれど、このあたりは
まだ寒い。早くお宿をとらなければ。 |
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ア、アンタはどうするの? もうこのままアラストフまでまっすぐ? |
ええ。そのための厚着です。わたしは平気。
……ほらメルル、コートから出て。 |
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ほぁい。 |
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スっ、スノーベリー! あ、あのね、あたしね、あたし、そのっ……その
ね、アンタがそばにいてくれて、よ……よかったって思ってる! アンタ
があたしのお姉ちゃんで、本当によかったって……心からそう思う! |
これからだって、ずっとお姉ちゃんだよ。忘れないで。 定めし心は通じ合う。たとえどんなに遠く離れていようとも。だってそれ がわたしたちの本当の魔法。偉大な魔女、アマルガムの娘たちのね。
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それじゃ、ラ・ヨダソウ・スティアーナ。元気で……。 |
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あっ、スノーベリーっ! ……あうっ! |
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消えちゃたね、スノーベリー。行っちゃった。 |
今のわーぷ? イリュシオンなんたら? |
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そおだよ。とっても難しくて、スノーベリーにしかできないんだって。
そうでしょチャイムぅ。 |
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……うくっ、ひうっ…………スノーおねえちゃあん…… |
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チャイムぅ? |
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あっ、……ああはは! んな、なんでもないのよ、ぐすっ……いひひひ。
……そ、今のはイリュシオンの空間移動特性を使った魔法でね、使い魔の
ことをぜんぶ理解してるスノーベリーだからこそできるスゴい魔法なの。
あなたたちも大きくなったらきっと…… |
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チャイム、どうして泣いてるのぉ? |
泣かないで、泣かないでチャイムぅ……。 |
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な、泣いてないでしょ〜。ちょっと、ハナミズが出ただけよ、ぐずっ……。
……だからね、ほらおいで、二人とも。 |
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うん。 |
おてて、おてて。 |
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ん、繋ぐのね、いいわよ。ずっと繋いでいましょ。
……そうよね、わたしたちはずっと一緒。どんなに離れてたって姉妹は姉
妹。なにがどーなったって、それは絶対に変わらないンだから。なんにも
怖くない。 |
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こわくない、こわくない〜! |
でもゲジゲジとイモムシは? |
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そ、それはダメよ。絶対に持ってこないで。お姉ちゃん卒倒しちゃうから。
さ、あたしたちもそろそろ行きましょ。今日はアレよ。早く行って、いい
お宿探すわ。上げ膳据え膳でさ、みんなで入れるおっきなおフロのあると
ころ。お金だけはたくさんあるもの! |
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……って、なに食べてるのアンタたち? |
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サクラモチ。お膳の下にあった。 |
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お膳の下ぁ? なにこれ……道明寺ぃ? 持ってくのそれ、箱ごと? |
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うん。これおいしーの。 |
持ってく持ってく〜。 |
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ふうん。隠してあったようにも見えるけどね〜。ま、いいわ。ほら行こ。
……あら、でもいい匂いね、あたしにも一つちょうだい。あぅ、自分で食
べるから平気よ……いやいや、食べかけじゃなくて、新しいのちょうだい
よぉ…… |
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