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~ その14 オマケの一日、最後の日 ~
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こんにちはーっ! どうもサクラコです。今日も相変わらずアニオタ陰陽
師やってまーす。え? 前回で終わったンだからさっさと帰れって? ま
あまあ、そうつれないこと言わないで。これにはワケがあるのです、ワケ
が。まあ、このワンちゃんも聞きたがってるみたいだし、話せば長いンだ
けどね、はるか昔、世界にはまだ地上も空もなく、陰陽も別れていなくて
ニワトリの卵みたいに全部が一つだった頃、万物の気というか、物体がこ
う、なんとなく集まりだしてですねェ…… |
もう少し簡単に! |
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ちょっと前に一回お休みしてたの、忘れてました。 |
そう、依頼は全部で一三回。だけど九回目で一度お休みをもらっているの
で、談義はまだ十二回しかやってない。そしてオレが聞きたいのはそんな
ことではなく、あと一回やらなきゃいけないことを三日間も忘れてウチで
ゴロゴロしていた体たらくのワケだ! なにより然諾を重んずる九条の跡
取りになら、それ相応の理由ってモノがあるンだろう? |
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そ、それはつまり、アレよぉ。むかしむかし人里離れた山の奥に、おばあ
さんと五〇過ぎになるニートの息子が住んでおりまして、このニートって
のがまたひどいオタクで問題ばかり起こしてて…… |
手短に! |
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うっかりしてました。 |
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……っていうか、もーいーじゃないのよお。確かにちょっと遅れちゃった
けど、そのぶんちゃんとやるし、わたしだってただ忘れてただけで別にず
るしたかったワケじゃないの! ううん。むしろ嬉しい。またここで、こ
うしてみんなに会えるなんてわたし、考えてもいなかったから…… |
だからそれが無責任だって言ってンだ! |
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んあ~~っ! ワカったわよ、わたしが悪かったから、だからもう黙りな
さい! 今日はステキなお客さんが来てるンだから、アンタもいーかげん
機嫌なおしなさいよねえ。 |
お客? |
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はい! というわけで始まりました騒動魔女長談義十三回目!
いやあ、桜が咲いて風吹いて雨降ってあっという間に散りました。気が付
けばもう四月も半ばであたたかさも本格的になってまいりましたね。これ
から夏にかけて陰陽師は大変です。なにがといえばこの浄衣。見てのとー
りこれがもー暑くて暑くて。だけど決まりだから人前ではずっとこのカッ
コで汗みずくになってなきゃならないンです。まあ、おうちに帰ればソッ
コー脱いでキャミと短パンになっちゃうンだけどね、そいうカッコしてる
と今度はお父さんとうるちクンがうるさくて。暑いから薄着することのな
にがはしたないのか、わたしにはどうにもワカらないっ! |
夏だからって、女子が縁側で腹出してグデーッとしてりゃ誰だって心配
するよ。
それよりおまえ、お客って誰だ? 魔女は一通り呼んだンじゃねえのか? |
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あ~、ひどいんだうるちクン。わたしのこと散々文句言っといて、アンタ
こそなに忘れてンのよぉ。 |
なにって……あ。 |
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そ。TWといえばこのコで、このコといったらTW。ついに来てくれたのよ!
それじゃさっそく登場してもらいましょう。ヒルビコットの森からやって
きたヘッポコ魔女見習い。虚心坦懐といえば聞こえはいいが、その実ただ
の無頓着。一を識りて二を弁えず、人の七難より我が十難。薄志弱行唯々
諾々、プリル・パトアールちゃんで~す! |
え、えへへへ。どうも、プリルです。素敵な紹介をしてくれてありがとう。
なんかムツカシくてワカんないけど、照れちゃいますねぇ。 |
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……いやいや照れちゃダメだ。ヘッポコくらいワカるだろ。 |
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あ! これ使い魔ですかぁ!? かわいーっ! |
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あっ、こら抱くな……なでるなあ! オレは式神で使い魔じゃない~~っ! |
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お~よしよし、なんだかお菓子みたいな匂いです。いいなあ。わたしも早
く、こんな使い魔が欲しいなぁ…… |
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……うるちクンを抱いているプリルちゃんをうしろから抱き締めるわたし。 |
はわっ!? んなな、なぁんですかぁ~~~っ! |
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ふっふふふ、大人しくするのよプリルちゃん! わたしはあなたをずっと
待ってたの。ここへ来た誰よりも会いたかった! ああん、かわいい!
わたしのプリルちゃわ~ん! |
うひぇあ!? |
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おいこら、頬ずりはよせ! 怖がってるだろこのコ! |
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ホウキにマントに魔法の杖にトンガリぼうし! これぞ正真正銘、本物の
魔法少女だわ! 可愛い可愛いとは思っていたけど、本物はその十倍可愛
いわね。……あうう、なんだかわたし、涙出てきたわよう! |
ふわわ、どーしたんですか!? わ、わたしなにか気に障りました? |
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ぐずうっ……えへへ、あなたがあんまり魔法少女なものだからね、ちょっ
と感動しちゃったの。 |
か、感動……ですかぁ? |
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そ。わたしはサクラコ、九条櫻子よ? 見ての通り、陰陽師をやってるけ
どね、本当は昔から、あなたみたいな魔法少女になるのが夢なの! だか
ら今日はいろいろ教えて。魔女の先輩としてご指導ご鞭撻のほど、よろし
くお願いします! |
せ、先輩だなんて……えへへへ、わたしなんてただの見習いなのに。 |
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押忍! まずはその服よ。ね、それどこで買ったの? わたしもその服着
たい。魔法少女っぽくてかわいくて、すごくステキだもの! |
えとぉ、この服は買ったんじゃなくて、お師匠さまが作ってくれたンです。
わたしのお母さんのもお師匠さまが作ったらしいんですけど、それと色違
いになってるンですよ。お母さんが白でわたしが赤。世界に一着しかない
大事な一張羅です。 |
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うわー、オンリーワンかぁ……残念。まあでもそうよねえ。フリルもリボ
ンもこんなについてるし、既製服じゃこんな独特な可愛さが出るわけない
もの。えーとぉ、それじゃこれはあとでチェンジしてもらって、二人でコ
スプレ写真撮るとして…… |
こすぷれってなんですか? |
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ああ、なんでもないのよ。こっちのことだから気にしないで。 |
……おまえ、また何か企んでやがるなぁ? |
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ふふん。うるさいのようるちクン。使い魔は主人のやる事にいちいち口出
ししないの。 |
使い魔じゃねえ! |
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……いいなあ、使い魔。 |
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ね、それよりそれはなに? その胸元のワッカもいいわよねえ。キレイで
ミステリアスで、いかにもって感じじゃない。 |
ああこれ。これはお守りです。なんというか、わたしはとっても運が悪い
みたいなので、お師匠さまがくれたんです。でもわたし、前にしょっちゅ
う失くしたので、ついに襟元から縫い付けられてしまいましたぁ。 |
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ほんとだ。よく見りゃ首に巻いてあるンじゃないな。 |
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でもコレ、ぴかぴかの金属だし意外と重いわよ? いっつもこんなのぶら
下げてたら肩とか凝るでしょ。厄除けにしちゃ、ちょっと大げさな気もす
るけど。 |
だからといって、外すわけにはいかないみたいです。これがないとわたし、
どんな目に遭うかワカらないし、これを失くしたとき、実際何度もひどい
目に遭ってます。 |
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そおなの? |
はい。植木鉢が落ちてきたり、階段から落ちたり。お料理をすれば必ず手
を切るかやけどをするかだし、外を歩けば突然イノシシに追いかけられて、
逃げ込んだ先がクマさんの住みかだったり。……あ、空飛んでるときにホ
ウキが折れたこともあったなあ。あのときはさすがにもうダメかと思いま
したねえ。 |
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あ、危ないわねぇ。でも、無事だったんでしょ。ここでこうしてるわけな
んだし。 |
あははは、無事なわけないですよぉ。上空千メートルから落っこちて、高
さ百メートルはあろうかっていうスギの木のこずえに上着が引っ掛かっちゃっ
て。地面に激突しなかったのはいいものの、不安定で身動きも取れないし、
大きな声を出しても誰も気が付いてくれないし、だからわたし、そのまま
一人で一週間もぶら下がってたんです。のどは乾くしおなかは空くし、ア
レはちょっとした地獄でした。知ってます? そうすると人って、起きて
いても夢を見るんですよ? 白昼夢っていうらしいンですけどね、ようや
くお師匠さまが見つけてくれたときわたし、お師匠さまがタヌキの丸焼き
に見えて咬みついちゃったんです。あとでそれ言ったら、誰がタヌキか!
って、すごく叱られてしまいましたぁ。 |
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……う~ん。それはそれで確かにヒサンだと思うけど、空から落ちて助かっ
たってことについては、運がよかったようにも思えるわ。まあでも、きっ
とお師匠さまが正しいわね。やっぱりそれ、すごいマジックアイテムなん
だわ。いいなあ。 |
でもこれ、激しく動くとぶぉんぶおん揺れて顔とかに当たって痛いです。 |
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それをいったら、そっちの髪の毛をまとめてる玉もそうよね。ずいぶん大
きいけど、いつも引きずってるの? っていうか重くないワケ? どうなっ
てるのそれ? |
ああ、これは魔力で浮いているから平気です。これもお師匠さまにもらっ
たモノですけどね、状況に応じてわたしの魔力を調節してくれたり、いざ
という時には増幅だってしてくれたりするすっごいアイテムなんですよ。
なんでも千年以上も前に、竜のクウェルドリーザが作ったっていう、とっ
ても珍しいものなんですって。だから大事にしなくちゃいけないんです。 |
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へえ、竜のねえ。竜はとっくの昔に絶滅したって聞いたけど、やっぱり魔
女のアイテムってただモノじゃないわね~。
それにそのトンガリぼうし。魔女といったらやっぱりそれよね。それもお
師匠さまのお手製? それにしちゃ、ちょっとすすけてるわよね。端っこ
とかいい感じで年季入ってるし…… |
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……あれ? それ、ほつれてるんじゃないの? よく見ると、なんだろ……
なんかモヤモヤしてない? |
ああ、これは霊体です。いつもこうなんですよ。 |
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霊体!? ……うそ、布じゃないのそれ? |
下地は布で、それに霊体をコーティングしてるんです。……あ、霊体といっ
ても、魔素(ガルタ)とか、そういう悪いものではなくて、もっと優しいっ
ていうか、精霊みたいなものです。高レベルの魔法使いがやればもっとキ
レイにいくンですけど、でもわたしはまだ見習いだから上手にカタチをた
もてなくて、それでどうしても端っこがチロチロしちゃうんですよぉ。 |
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た、確かにまずい気配はしないわね。……触っても平気かしら。 |
モヤっとして気持ちいいです。 |
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ほんとだ。モヤっとする。……これは、アレね。ほら、お湯で溶いたカタ
クリコ! 風邪ひいたときに、苦いお薬といっしょに飲むアレ。アレに指
を突っ込んでる感じよ。気持ちいいかしら。 |
うーん。わたしはいつも、雲に触れるとしたらこんな感じかな~って思っ
てましたけどぉ。 |
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ああ、カタクリコより、そっちのほうがたぶん気持ちいいな。 |
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そ、そおよ。これは雲のカンジ。うん。わたしもホントはそう言おうとし
たの。……でもどうして霊体なんかコーティングするの? 大事な帽子を
汚れとか害虫とかから守るため? |
おお~~っ、それは考えつきませんでしたぁ! でも、確かにそうですね
え。やりようによってはそれもいいかもしれません。サクラコさんの言う
とおり、帽子は魔女の命ですから。 |
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でもこれは違うんです。これはいわゆる防御魔法。不慮の事故から頭を守
るために、帽子に精霊を纏わせてヘルメットにしているんです。わたした
ちはクッションの魔法っていってますけど。 |
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くっしょん? |
そう。クッションの魔法です。こう見えて、あらゆる衝撃を半減するほど
には機能してるんですよ。ヘッポコのわたしでも、この魔法だけは一番
初めに覚えました。 |
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へえ、半減だなんてすごいじゃない。それじゃ例えば棒でぶたれても平気?
痛くないの? |
え? ダメですよぉ。棒なんかでぶたれたら痛いに決まってます。それど
ころか場合によっては普通にケガしますよぉ。 |
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は? どうして? それじゃ意味ないじゃん。 |
そんなことはないんですけどぉ、えへへ、これはあくまでも衝撃を半減し
てくれるだけで無効化してくれるわけじゃないんです。例えば数字で言い
ますと、100のダメージが50になるだけ。仮にわたしのヒットポイン
トが100だったとしても、一気に半分を持っていかれちゃうってことに
なるンです。するとこれはもう、深刻なダメージですよぉ? わたしたぶ
ん、痛くて泣いちゃいます。 |
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あ、ああ、冷静に考えればそうね。一撃死はしないけど……ってことかぁ。 |
いえいえ。その計算によれば200以上のダメージで一撃死です。例えば
崖の上から岩が落ちてきたり、通りすがりのギガンテスにこん棒で殴られ
たりしたら危ないですね。危ないっていうか、たぶんダメですねえ。 |
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……ロ○の装備コンプリートしてたって、アイツの痛恨の一撃には泣かさ
れたものね。そりゃ確かにダメだわ。 |
それに100って言ったのはわかりやすく例えただけで、わたしのヒット
ポイントなんて本当は10もないんです。ひのきの棒で十分退治できちゃ
うスライムと変わりないんですヨ。だからお師匠さまにぶたれるだけで痛
くて痛くて……。 |
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わかった。それでプリルちゃん、クッションの魔法を一番初めに覚えたの
ね? いっつもお師匠さまに叱られてばかりいるンでしょ。 |
あ、あははは~~……バレちゃいましたか。本当はそうなんです。お師匠
さまはとっても怖い人ですから。 |
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そおなんだ。そんなに可愛い服を作れるんだから、もっと優しくておしと
やかな人を想像してたけど、ちがうのねぇ。 |
ううん。いつもは優しいですよ、すごく。ただ、魔法のコトには厳しいっ
ていうか、お師匠さまはエイヘムランドでもすごく偉い魔法使いですから。
なのにわたしときたらいつまでも甘えん坊でだらしがなくて、だから仕方
ないんです。わたしみたいなヘッポコ見習いの修行は、厳しくて当たり前
なんですヨ。 |
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修行かぁ。頑張ってるのね、プリルちゃんも。立派な魔女になるために。
ね、具体的にはどういうことしてるの? やっぱりつらい? わたしも魔
法少女を志す身として、実に興味深いんですけど。 |
そうですね。魔女はいろんなことを知っていなくちゃいけませんから、そ
のためのお勉強は大変です。それに魔力を向上させるためには心も身体も
鍛えなくてはいけないですからね、つらいといえばつらいのかもしれません。 |
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でもこれ以上はヒミツです。これは魔女見習いのオキテだし、それを絶対
に破らないってわたし、お師匠さまと約束して弟子にしてもらったんです。
だからごめんなさい。 |
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……チッ。ちゃんと弁えてるのねこのコ。それなら力ずくで訊いちゃおう
かしら。 |
えっ!? |
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あははは! なぁんてね。んふふ、冗談よプリルちゃん。そんなの知って
る。わたしのトコだって、修行や技のことをおいそれと他人に話したりは
しないわ。実際、普通の人には出来ないような危ないコトばかりしている
わけだし、不用意にマネでもされたら大変だものね。その力も資質もない
人じゃケガだってするだろうし、それだけじゃ済まないコトだって起きか
ねない。そんな事態の引き金になるようなことは、陰陽師として絶対にし
ちゃいけないの。 |
そうです。加えて問題なのは、そういう知識や力を悪用する人たちもいる
ということです。魔法の意義として今日の定めるところは、あくまで人倫
の人倫による世の中で人の役に立つ範囲へとどめられています。だけどそ
れは人間が勝手に決めたコトにすぎず、実のところ魔法の正体なんて誰に
もわかりません。現象として風が吹くのはともかくその理由などないのと
同じ。魔法とは本来、なんのためにあるのか、その本義は一体なんなのか、
それを正しく説明できる人なんてこの世には一人もいないのです。
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だからこそ重要なのは向き。魔法にそれがないのなら、わたしたちが正し
い向きへ導かなくてはいけません。魔法使いというのは魔法の行使者であ
ると同時に魔法の管理者でなくてはならず、なれば問われるべきはその素
養と資格なのです。それを持ち合わせない人へ魔法を教えるなんて、あっ
てはならない大きな間違い。許されざる罪でしょう。 |
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……そういうの、ここにはたくさん来た気がするけどな。 |
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うん。みんなが個性的なだけだと祈るしかないわね。 |
え? お祈りですか? |
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ううん。明解な解説だったわ。すごくよくわかった。
でもわたしだって陰陽師のはしくれよ。プリルちゃんたち魔女のそれと概
ね同じオキテの中で生きてるし、それなりの素養と資格は持ち合わせてい
るつもり。だったらわたしもなれるかな、プリルちゃんみたいな魔法少女に。 |
もちろんです。サクラコさんからは魔女の素養のほかに、すごい自信が感
じられます。きっと、わたしなんかよりずっとステキな魔女になれると思
います! |
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ほんとぉ! うわ、やったあ! ……ねね、聞いたうるちクン! わたし
もなれるって。本物の魔法少女のお墨付きよ! あははは、明日おとーさ
んに言っちゃお! |
ああうう。ウチの跡取りはすぐその気になる。 |
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うふふ。だから一つだけ特別に教えちゃいますけどぉ、魔女の修行は魔法
の範囲にとどまりません。身嗜みには常に注意してなくちゃいけないし、
礼儀作法だっておろそかにしちゃダメ。炊事もお掃除もお洗濯も、自分の
ことはぜーんぶ自分でやらなきゃいけないンです。その他にもいろいろ見
たりやったりして見聞を広めなきゃいけないし、教養だって深めなきゃ。 |
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すると朝起きてから夜寝るまで、怠けてていい時間なんてないんです。魔
女といったところで人には変わりないのですから、誰からも尊敬されるよ
うな立派な魔女になりたいのなら、まずはきちんとした正しい人にならな
くてはいけません。それは身を律するといって、修行よりも大事なコトな
んだって、お師匠さまはいつも言ってます。 |
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……ほほお。聞いたかサクラコ。怠けているヒマなんてないンだってよ?
炊事も掃除も洗濯も、魔女はぜーんぶ、自分でやるンだってさ。 |
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ンな、なによぉ。わたしだって、お料理くらいするもン。そ、そりゃお掃
除とかはしないけどぉ、そもそもわたし部屋汚さないし、キレイ好きだし。
それにいつも忙しいし、怠けてなんかないわ。 |
まあな。忙しいのは認めるよ。でも部屋にはなんだかモノが多いし、整頓
されているだけでホコリはとらねーし。コタツの周りにマンガだのラノベ
だの積み上げて、暇さえありゃゴロゴロゴロゴロ。母上の手伝いもしねえ
で、下着のまんま腹出してテレビばっかり見てるじゃねえか。 |
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け、見聞を広めてるの! それに下着じゃなくてタンクトップのショート
です。修行の時に着るスポーツウェアですぅ。すけべ! |
けっ。先週から修行もしてねえクセによ。まあ、魔女になるならねえはと
もかく、もう少しきちんとした生活を送るように、努力したほうがいいと
思うぜ。 |
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え、えへへへ。実はわたしもそうなんですけどね。言われてばっかりで実
際がどうかといえば、大して出来ていないという。だから叱られてばっか
りいるわけで……。 |
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そんなものなのよ。自身を律するのが大切だってことくらい知ってるけど、
でもぜんぶなんて無理。時は常に移ろっているんだし、今は今しかできな
いことを、わたしたちはしてるンだから。それだってきっと、魔法少女に
は大切なことだと思うわ。 |
ああ言えばこういう……だ。おまえが弟子じゃ、お師匠さまも小骨が折れ
るよ。 |
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どおしてよぉ。そうやってわたしはわたしなりに一生懸命努力をしてるの。
お師匠さまだってきっと感心なさるわよ。そうよね、プリルちゃん。 |
えへへ、ど、どおかなあ。お師匠さまはテレビとか好きじゃないから……。 |
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そおなんだ。そしたらウチのお父さんと同じなのかもね。ま、いいわ。
それよりさ、プリルちゃんはどうして魔女になりたいの? 魔女になって
なにをするのが夢? |
えっ!? わ、わたしですか? |
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どうしたの、そんな顔して。ほかに誰がいるっていうのよう。 |
あ、いえ、別に……。 |
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わざわざそんなに厳しいお師匠さまのところへ弟子入りするくらいなんだ
から、あるんでしょ?
なにかよほどの理由が。 |
理由……ですかぁ。 |
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あー、なによ、もったいぶっちゃって。さてはあれね。やっぱりプリルちゃ
んもわたしと同じだ。正義の味方になりたいんでしょ。可愛くてカッコい
い魔法少女になって、みんなの人気者になりたいんだぁ。 |
可愛くてカッコいい……ですか。んふふ、それもいいですねえ。魔女が弱
い人の味方であるのは当然だとして、わたしもそんなふうになれたらすご
くステキだと思います。 |
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でも、ちがうんです。わたしは、……わたしはお母さんに会いたいんです。
立派な魔女になっていつかきっと、お母さんをさがしに行きたいんですよ。 |
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は? お母さん? ……をさがしに? |
一緒に暮らしてるんじゃ、ないのか? |
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はい。実を言うと、わたしには両親がいません。お父さんは昔、なにかの
事故で死んじゃって……あ、わたしはそれからすぐに生まれたんですけど、
そのあと一年も経たないうちに、お母さんもどこかへ行ってしまいました。 |
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……え。
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お母さんは魔女だったんです。お師匠さまの一番弟子で、街で一番優秀で、
誰をも思いやることのできた、優しくて明るい人だったそうです。
だから放っておけなかったんですね。ある日、どこかで開きかけていた魔
界の門を閉じてくるんだって、お母さんはそう言って出かけたンです。生
ぬるい雨の降る夜、それが友だちのためになるんだって、お師匠さまにそ
う言って。すぐに帰ってくるからって、カゴの中で眠っていたわたしのお
でこにキスをして、お師匠さまが止めるのも聞かずに飛んで行っちゃった
ンです。 |
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……だけどそれきり、お母さんは帰ってきません。だからその間、お師匠
さまがわたしを育ててくれました。あの一番弟子は一体どこでなにをして
いるんだ! って文句を言いながら、わたしを本当の娘のように可愛がっ
てくれたんです。 |
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|
プリルちゃん……。 |
聞けばお母さんもそうだったみたいです。子供の頃に両親を亡くして、そ
れでお師匠さまのところへ来たんですって。お母さんのお母さんがお師匠
さまの友だちで、やっぱりすごい魔女だったみたいです。だからお母さん
も魔女になるんだって、立派な魔女になってきっとお師匠さまへ恩返しす
るんだって、それでお師匠さまの弟子になったんです。そこまではわたし
と同じ。すごい才能があったっていうところは……えへへへ、似ても似つ
かないンですけどね。 |
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だからわたし、魔女になりたいんです。……ううん。必ず立派な魔女になっ
て、いつかきっと、お母さんを連れ戻しに行くんです。 |
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それで……それでお母さんは、どうしてるの? |
わかりません。でも必ず生きてます。そんな気がするんです。お母さんは
きっとどこかで暮らしてる。豊かではないけれど、生きていくには不自由
のない、遠い遠いどこかの国で。ただ、まだ帰ってこれないだけ。その国
には困っている人がたくさんいて、みんながお母さんの助けを必要として
いて、だからお母さんも放ってなんかおけなくて、それで仕方なく。いつ
も、わたしとお師匠さまのこと考えながら、みんなのために頑張ってるに
違いない。そんな気がするんですよ。 |
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そして夜になると、わたしとおんなじ色の髪を乾かしに、テラスへ出ます。
そこでお月さまを見上げて、毎日こう言うンです。
お母さんはここにいるよって。早く立派な魔女になって、迎えに来てね……
って。もちろんわたしも毎日、お月さまに言います。 |
|
必ず行くから待っててね……そうしたらきっと、お師匠さまと三人で暮ら
そうね……って。
定めし想いは通じ合う。どんなに離れていようとも。
それがわたしたちの本当の魔法なんだって、わたしはお師匠さまにそう教
わっています。 |
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……えへへへ、ちょっと照れくさいんですけどね。 |
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プリルちゃん! |
んわっ!? は、はいっ! |
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がんばってるんだね! そんなつらいことがあるのに、ちゃんと前を向い
て。立派だわ、プリルちゃん! |
あっ、いえ! 誤解しないでください。わたし、別につらくなんかないで
す。それはまあ、ときどき寂しいときもあるけれど、でもわたしにはお師
匠さまがいるんです。口うるさくて偏屈なお師匠さまのそばにいたら、く
よくよしてる暇なんてないんですよ。 |
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それに、やさしい。口には出さないけど、すごく。わたしはそんなお師匠
さまがお母さんと同じくらい大好きなの。だから平気です。 |
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ううう、なんていじらしいのかしら。でも覚えておくのよプリルちゃん。
わたしもあなたの味方。想いは違えど、おなじ夢に向かってる仲間なの。
修行が苦しい時とか、ぶたれた時なんかにはきっと思い出して。わたしも
……ううん。ここに来たみんなだって、きっと頑張ってるンだってことを。 |
みんな……ですか? |
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そう! みんなよ。みんなそれぞれ想いに向かって走ってる。そりゃあヘ
ンな人もいたけど……というかヘンな人ばっかりだったけど、でもみんな、
一生懸命なの。……あ、一生懸命じゃない皇女もいたかもしれない。でも
なんか、自分の将来について悩んでた。根なし草魔女なんて、ものすごい
借金があって……それで首が回らないみたい。 |
?? |
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それに国民的アイドルは、なんか崖っぷちに立たされてる。ツンデレ魔女
はなにかこう……とりたててなにがしたいのかよくわからないけど、いろ
いろ不満があるみたいだったし、極貧大司教は……あのコは食べるのに夢
中でなにしてた? シンフィーさんに至っては、終始寝てたンだっけ?
……あれ、なんだかワカんなくなっちゃった。ギャグギャグしたキャラっ
て、こういうときに困るのよね。ちっともキレイにまとまんないわ。 |
なんだ。なにぶつぶつ言ってる? |
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ああいや、なんでもないのよ、なんでも。
まあ、みんなはともかく、わたしは頑張るわ。魔女だって人であることに
変わりないのなら、私たちは皆とそう変わらない現実に生きている。そこ
から抜けだす魔法なんてあるわけないし、願いの全部が叶うほど、世界は
都合よくも出来ていない。そしてそういうコトに背を向けるのだって、多
分許されない。 |
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だけどきっと大丈夫。プリルちゃんはきっとお母さんに会える。プリルちゃ
んは現実をちゃんと受け止めて、夢へ逃げ込まずに頑張ってる。だったら
平気よ。わたしと同じだもン。そうやって叶えられない夢なんかない。願
うだけで叶う夢がないように。 |
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……だからきっとなろうね、魔法少女に。二人して、ステキな……さぁ。 |
はい! わたし、頑張ります! ……えへへ、わたしたち、今日からお友
だちですね。お友だちがいるとやっぱり、心強いですねえ。 |
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そうね。それじゃ記念にお写真とろっか。一緒に。 |
お写真? わたし、お写真はだーい好き! |
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……なんて言ってみるテスト。 |
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わかんないわ。でもね、二人して写真撮っとけば、もっと心強くなると思
うの。だからさ、ちょっとわたしンちにいこ。お着替えがあるから。 |
えっ、着替えるの!? なにに? わたし、この服以外になんにもに合わ
ないと思うんだけど! |
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そんなことないから。だーいじょうぶだから! わたしがちゃんと着せて
あげる。きっとめちゃくちゃ可愛くなる!
だから……ね? |
……なんだか人さらいみたいだぞ、おまえ。 |
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というわけで陰陽師でした~。
あれからプリルちゃんと衣装チェンジしてもうバッシバシ! 写真撮っちゃ
いました。プリルちゃんたら初めは嫌がってたクセに、最終的にはわたし
のこの浄衣が気に入っちゃったみたいで、なかなか脱いでくれないの。ま
あ、とっても似合ってたからね、一着くらいあげてもよかったンだけど、
でもやっぱりプリルちゃんはあのカッコが一番よね。ってゆーかむしろ、
わたしがあの服ほしいっつーの! |
いやあ、プリルのヤツ、本気で悩んでたぜ? 交換しようかどうしようかっ
てよ。 |
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まあね~。わたしもエラク似あっちゃってたもんね。いやー、マジだわー。
わたしマジ、魔法少女に向いてるわー。二人で撮った写真、あとでお父さ
んにも見せちゃおう! |
父上、喜びそうでイヤだなあ。 |
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あ! あとね、長談義は今回を以て本当に終わります。なんだか下らない
ことばっかり言って、最後までゲームには触れられなかったけど、一生懸
命やったってことで勘弁してね。あ、いや、過程に満足するってわけじゃ
なくてね、これは事情なの。いろんな事情があってこうなって、これがベ
スト。わたしのね。 |
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それじゃみなさん、今までホントにありがとう。
いつでも元気で明るくて、ちょっとぽや~っとしてるプリルちゃんが、い
ろんな魔女相手にもみくちゃにされる「トラブル☆ウィッチーズねぉ!」は、
Xbox360 Live アーケードにて4月27日(水)に配信です! |
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……最後にちゃんと日にちを言えて、よかったわ。
それじゃ、その日に会いましょー! |
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